二十四節気 第17番【寒露】(かんろ)
季節は晩秋。
草木に冷たい露が降りる頃。
「寒い露」と書くように「冷たい露が降りる時期」という意味が込められています。この時期になると朝晩の冷え込みはきつくなりますが、日中に晴れた日は空気が澄んだ秋晴れの過ごしやすい日が多くなります。
雨が繰り返すたびに、朝晩はぐっと冷え冬に近づいていきます。
五穀の収穫で農家は繁忙期となり、実りの秋の味覚が充実していきます。
また、この時期は夜空が深く、月や星が美しい頃とされています。
1日の終わりに、ほっと一息。夜空を見上げてみませんか。
それでは、寒露の時期の文化や行事をご紹介いたします。
収穫祭
収穫祭とは農作物の収穫を祝う祭です。
古来からお米を主食とし、また時に、紙幣の代わりとし、生活してきた日本人にとって、大きな意味を持ちます。そのため、ひとつの祭事としてではなく、全国各地でさまざまな形において行われてきました。
神嘗祭と新嘗祭
中でも日本の収穫祭の代表と言えば、伊勢神宮にて行われる神嘗祭(かんなめさい)と新嘗祭(にいなめさい)になります。伊勢神宮でも、最も由緒深い祭典で「三節祭」の1つに数えられます。
神嘗祭の起源は天暦3年(949年)と言われ、「新嘗祭」は最も古い歴史を持つ祭事として飛鳥時代から伝わる歴史を持ちます。また1908年(明治時代)には、神祭の中でも主要なものとされる大祭に指定されました。
「嘗」は、食べ物でもてなす、お供えものをして神をお迎えするという意味を持つ漢字になります。
神嘗祭は毎年10月17日
新嘗祭は毎年11月23日に行われています。
◆神嘗祭◆-かんなめさい-
神嘗祭は、天照大御神(あまてらすおおみかみ)が神々の住む天上の高天原(たかまがはら)で、初穂を食されたという神話に由来するといわれ、「日本書紀」によると、この国の稲作は、天照大御神から授けられた稲穂により始まったと記されます。
天照大御神は天皇の御祖先の神であり、日本の総氏神とされています。伊勢神宮の皇大神宮、内宮で祀られている神こそ、稲穂を授けた「天照大御神」です。
歴代の天皇陛下は、この地にお米の恵みを伝えてくださった皇祖とされる天照大御神に感謝を捧げ、その年の初穂を奉納するのです。
それが「神嘗祭」「新嘗祭」の一連の行事としておこなわれます。
そもそも、神宮では年間1500余りの行事が行われていますが、その多くはお米作りに関したものだといいます。
「米」という字が「八十八」で成り立っているように、88もの手間がかかるというお米作り。伊勢神宮では、そのさまざまな工程が儀式として執り行われます。お米作りそのものがお祭りとなっているのです。
神嘗祭ではどんな儀式が行われるのでしょう?
神宮では、以下の3つの神事を中心に執り行われます。
伊勢神宮で行われるお祭りは「外宮先祭」が習わしとなっているので、神嘗祭もその順で行われます。
1◆由貴大御饌の儀(ゆきのおおみけー)◆
22時に由貴夕大御饌(夕食)、明けて2時には由貴朝大御饌(朝食)の儀式が浄闇の午後10時と午前2時の二度にわたって行われます。
神職の持つ松明と提灯の灯りに照らされて執り行われる、神嘗祭の中でも最も大切な儀式されています。
“限りなく尊いお食事をお供え“という意味合いを持つ
「由貴大御饌(ゆきのおおみけ)」
由貴には「清らか、清浄」、大御饌には「立派なお食事」という意味があます。
由貴大御饌では、鯛や伊勢エビ、アワビ、サザエ、鮎、野鳥、大根や下記、御飯三盛、昆布、乾鰹などの30種類を超える食材。神田で収穫された新米を玄米のまま蒸して土器に盛り、御餅をつきお供えします。また白酒(しろき)、黒酒(くろき)、清酒(きよさけ)、醴酒(れいしゅ)という4種類のお酒が捧げられます。
2◆奉幣(ほうへい)◆
天皇陛下から遣わされた勅使が神への捧げものをする儀式です。五色(青・黄・赤・白・黒)の絹の反物などをお供えします。
また、天皇陛下が皇居の御田で育てられた御稲穂が、内宮・外宮の御正殿を囲む内玉垣の正面に奉懸されます。そして、内玉垣には並んで、懸税(かけちから)と呼ばれる全国各地の農家から集められた多くの稲穂も奉献されます。
3◆御神楽(みかぐら)◆
神嘗祭の最後には、御祭神を和める奏楽、舞御が奉納されます。
また、神嘗祭は宮中でも行われています。続いて皇居内の宮中三殿の賢所で神嘗祭賢所の儀が行われ、天皇陛下が神に新穀を奉納され、五穀豊穣と国の安寧をお祈りされるのです。
その他、儀式のなかには「興玉神祭」「御卜(みうら)」などがあります。
「興玉神祭」は内宮御垣内西北隅に御鎮座の地主の神、興玉神をおまつりし、奉仕員一同が過ちなくご奉仕できるように祈ります。「御卜(みうら)」は、神の御心にかなうか、罪や穢(けがれ)の有無を神慮にうかがう儀です。
また、約1か月後の11月23日に行われる新嘗祭(にいなめさい)は「しんじょうさい」ともいい、「新」は新穀(初穂)、「嘗」はお召し上がりいただくこと・御馳走を意味します。
◆新嘗祭◆-にいなめさい-
神嘗祭と同じ五穀豊穣の収穫祭にあたりますが、新嘗祭では天皇陛下が初穂を神々にお供えし五穀豊穣に感謝を捧げ祈念します。また、その恵みに感謝し、国家安泰、国民の繁栄をお祈りします。
神嘗祭と新嘗祭の主な違いは、新嘗祭では天皇自ら新米を召し上がると言うのが神嘗祭との大きな違いになります。
古くより日本にとって、大切にされてきた神嘗祭と新嘗祭。それは日本国民が農耕社会に生き・国家として生きてきた礎にもつながります。
敗戦後、GHQにより憲法改正と共に日本の文化や伝統は一部排除され、弾圧されて参りましたが、古来から現代まで、歴史と共に食文化は変化する中でも、お米を主食として生きてきた日本人にとって重要な祭儀であることに変わりはありません。
そして、現代の私たちの食卓の上にのぼるフードロス問題や添加物の問題。あるいは記憶に新しい米不足(騒動)などがありますが、神嘗祭や新嘗祭を通して改めて、食や生活を見つめなおす良い機会にもなることでしょう。
もうすぐ新米の季節になりますが、食への感謝を込めて、おいしく召し上がりたいですね。
スポーツの日
「スポーツの日」とは、「スポーツを楽しみ、他者を尊重する精神を培うとともに、健康で活力ある社会の実現を願う」日とした国民の祝日にあたり、で10月の第2月曜日に制定されています。
祝日が制定された由来は、1964年の10月10日に東京でオリンピックが開催されたことを記念し「体育の日」という国民の祝日が制定されました。
以後、2000年に法の改正により、毎年10月の第2月曜日になり、2020年から「スポーツの日」に名称が変わりました。
◆「体育の日」と「スポーツの日」◆
変更理由としては、スポーツを通じて世界各国と協調していく観点から、学校教育としてのイメージの強い「体育」の言葉を用いないことを理由に改正され、趣旨も国民全員がスポーツを楽しめるような内容へと変更されています。
<旧:体育の日>
「スポーツにしたしみ、健康な心身をつちかう」
↓
<現在:スポーツの日>
「スポーツを楽しみ、他者を尊重する精神を培うとともに、健康で活力ある社会の実現を願う」
よりオリンピック精神・スポーツマンシップに基づいた内容となっています。
週末には、全国各地至るところでイベントが行われたり、運動会や体育祭が今時期の学校もあると思います。また。地域のクラブ活動なども盛んになる季節です。
秋晴れのすがすがしいお天気の下、外に出かけるなど、身体を動かしたり、ハイキングに出かけたりなど健康を考えるきっかけにしても良いですね。
【寒露】七十二候では下記のように表されています。
●初候<鴻雁来(こうがんきたる)>
ツバメと入れ違いに雁が北から渡ってくる頃。二十四節気の【清明】次候でご紹介した「鴻雁北 (こうがんかえる)」と対になった候となります。
毎年、初めに訪れる雁を「初雁(はつかり)」と呼び、雁は日本で冬を過ごし、暖かい春になるとシベリアの方へ帰っていきます。群れをなして大空を飛ぶ雁の姿は美しく、昔から様々な文学作品に登場し、絵画の題材にも取り上げられてきました。
小説では森鷗外の『雁』(がん)はとても有名です。井伏鱒二さんの『屋根の上のサワン』。小学生のころの教科書にも『大造じいさんとガン』という作品やスウェーデンの児童文学『ニルスのふしぎな旅』という物語など、年代に関わらず昔から文学や芸術的な視点でも各国の季節の風物詩として親しまれている様子が伺えますね。
●次候<菊花開(きくのはなひらく)>
菊の花がさく頃。全国各地で菊の展示や菊まつりが行われます。
菊には不老長寿の薬効があるとされ、古来中国から伝播し、重陽の節句には菊の花を酒に浮かべた菊花酒を飲む風習がありました。
●末候<蟋蟀在戸(きりぎりすとにあり)>
秋の夜長、こおろぎの鳴き声が戸口で聞こえる頃。
昔は「蟋蟀 (コオロギ)」のことをキリギリスと呼び、秋に鳴く虫の総称でもありました。夜になると肌寒い夜風と共に、虫たちの声が聞こえてきます。この時期は月や星が美しい頃とされています。1日の終わりに、夜空を見上げてみませんか。
* * *
季節は秋。
【食欲の秋】 というわれるように実り豊かに。
【芸術の秋】【 読書の秋】といわれるように風流な気配に。
【スポーツの秋】 といわれるように過ごしやすい季節に。
良く晴れた秋晴れにはどんな秋を過ごそうかとワクワクしますね。
朝晩、すっかり冷えて、日中の気温差に季節の変わり目を感じます。
これからの季節をたくさん楽しむために、ぜひ体調に気を付けながらお過ごし下さい。
次候は<第18番【霜降-そうこう-】
秋も深まる晩秋の最中。冬の足音が聞こえてきます。