初正月を迎える赤ちゃんはお祝いとして、男の子には、健やかでたくましく成長してほしいという願いを込めて「破魔弓」、女の子には魔除け、厄払いのために「羽子板」を飾る風習があります。
古来より、年末年始や節句などの季節の変わり目に「邪気祓い」や「厄除け」の行事が多いのは、この時期に『鬼門(きもん)』から鬼(邪気)が出てきて悪さをするため、病気になったり災厄が起こったりすると考えられていたからです。そこで、生まれて間もない赤ちゃんが無事にその時期を越せるように、初正月に羽子板や破魔弓を贈り「子どものお守り」とするようになりました。
成長と幸福を祈る文化、初正月。
産まれてから大人になっても楽しめる文化として、
いつまでもお祝いをお楽しみいただけますように。
お正月とは
お正月は、日本の行事の中で最も古くから存在するものと言われています。日本の行事・習わしの中でも、特別に大切にされてきた文化と言えます。お正月の「正」と言う字には、年の【初め】、年を【改める】という意味が込められています。昔は「正す月」として、1月を通して「正月」としていました。
【お正月事始め】から半月をかけ家内を掃除し、整え、お飾りや歳神様の依り代、お供えを準備します。
そして、新しい歳神様を家族そろってお迎えし、祝うための大切な日となります。
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1.初正月と数え年
古来より、初正月が特別に扱われるのは、初めてのお正月ということだけでなく、赤ちゃんにとって生まれて初めて歳を重ねる日と考えられていたからです。
現在の一般的な年齢の数え方は「満年齢」ですが、昭和24年頃までは「数え年」という数え方が主流でした。「数え年」では、生まれた日を「1歳」とし、「お正月を迎えた日に1歳年を取る」という捉え方をするため、当時は初正月が誕生日の意味でも捉えられていました。初正月では「2歳の誕生日」ということになります。出生時を「数え1歳」として、元日を迎える度に年齢を加算していく、年の数え方になります。
現在、日本では基本的に生まれた時点の年齢を0歳とし、以後誕生日を迎えるたびに1歳を加算する「満年齢」で年齢を数えます。それは、生活環境が現代のように衛生的ではなく、医療環境が充分整っていないことや、栄養面においても貧しい時代に、赤ちゃんが無事に生まれたとしても、成人することはおろか、1歳まで生きるのが大変でした。
そのようなことから、無事に初正月を迎えられるのは大変喜ばしいことであり、また、そのような時代では、できるだけ長く生きた証として、亡くなった際のお位牌には満年齢で記載することが現代でも残る風習です。
伝統行事の「七五三」や「長寿の祝い」などは、「数え年」で行う祝い事となりますが、現代では数え年・満年齢のいずれで祝ってもよいとされていることが多いです。
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2.破魔弓の由来・歴史
破魔弓の由来はいくつかありますが、古来より弓矢には霊力がさとると言われ、古くから神聖なものとして神事・儀式に用いられるなど神聖なものとして扱われてきました。
古いものであれば飛鳥時代にさかのぼり、『日本書記』によれば、古来より宮中における弓競技が正月17日に行われ、大的を射る大射(おおゆみ)の儀式が行われていました。節度を重んじる意味で用いられ「射礼(じゃらい)」と呼ばれ伝えられました。その後、平安時代には宮中で年末の大晦日に「追儺(ついな)」と言われる「鬼退治の儀式」が行事として盛んに行われるようになります。「追儺」は民間にも広がり、節分など、季節の節目に行われる行事となり、その他に「鬼ごっこ」の起源としても知られています。追儺で使用する道具は、的となる標的「ハマ」と、的を射る「ハマ矢」。矢を打つ「ハマ弓」が使用されます。「ハマ」の部分に、鬼や悪魔を「破る」という意味で「破魔」という字が当てられ語源となりました。
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また、室町時代には、元来、弓や矢は神聖なものであることから邪気払いとして、”鳴弦の儀(めいげんのぎ)"と言われるものがあります。鳴弦の儀は弓に矢をつがえずに弦を引き、音を四方へ向け発することで邪気を退ける儀式として、子どもが誕生(子どもの出産)の際の儀式として用いられました。その他に、主の病気祓い、不吉な出来事が起こった際など幅広く行われていたとの記述が残ります。
鎌倉時代になると破魔弓は小型化し、武家では男児の初正月飾りとしたり、縁起物として贈答にも用いるようになりました。次第に庶民の間にも広まり、現代でもお正月のお飾りとして、初節句のお守りに贈られます。
破魔弓・破魔矢は「魔除け」や「厄祓い」の象徴として、正月のお飾りだけでなく「端午の節句」にも飾られます。また、季節の節目やお祝い・儀式(七五三や初詣など)で、神社やお寺で、破魔矢を送られる風習は古くから行われています。
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3.破魔弓は誰が贈るの?
破魔弓は母親の実家(祖父母)から贈るのが一般的とされています。近年は結納をしない夫婦も増えていますが、昔の日本では、結婚には嫁ぎ先の家が結納金を、嫁ぐ家が嫁入り道具を用意するのが一般的な習わしでした。その為、羽子板以外にも、お宮参りの晴れ着や雛人形、鯉のぼりなど、子どもの成長をお祝いするお飾りのほとんどは嫁入り道具として扱われていたのです。
◆時代の変化と共に◆
近年では、核家族化やライフスタイルの変化が進み、しきたりにこだわりすぎず柔軟に考える親御さんが増えています。両家でお金を出し合うケースもあれば、男親側が用意することもありますし、両親に頼らず自らがお金を出して購入するケースもあります。
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4.飾る時期・しまう時期
12月13日~1月15日
(正月事始め~小正月)
日本の風習に、毎年12月13日には、新年の歳神さまを迎える準備を始める日『正月事始め』として雑節で決められています。
お正月準備と言えば、門松やしめ縄を用意したり、煤払いやお節の準備をしたりすること。その中に羽子板や破魔弓などの正月飾りを飾ることも含まれています。
そして、1月15日の小正月(こしょうがつ)までの約1ヵ月間、飾るのが一般的です。
◆五月人形と一緒に飾る破魔弓◆地域やご家庭によって、五月人形と一緒に破魔弓をお飾ったり、外に鯉のぼりをお飾りするご屋内ではお守りとして破魔弓をお飾りするご家庭もおられます。
そうした場合は、小正月に一度しまい、五月人形やこいのぼりを飾るタイミングで再度、飾るのが良いです。
基本的に、季節のものを飾りっぱなしにするのは良くないとされていますが、縁起物ですので一年中飾りっぱなしにしても問題はないと言われています。
しかし、一年中飾るという意味ではない場合は、やはり節目に合わせて、そのつど片づけることが望ましいと思います。
その時期の習わしや節句の本質は、その季節の生活を整えること・生活を切り替えていくことを軸に考えられています。その時々の季節や文化を感じながら、あらためて家族や自分自身の身体を気遣ったり、生活を見直すタイミングとして、季節を過ごしていただけたらと思います。
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5.破魔弓は何歳まで飾るの?
破魔弓は何歳まで飾るのかなどは特に決まりはありません。
昔は、「子どもが成長するまでのお守り」として飾っていたので、現代の「成人式」にあたる「元服(げんぷく)」を行う15歳まで飾るのが一般的でした。
現代でも、元服の年齢に合わせて15歳まで飾るというご家庭もありますし、成人式を行う18歳まで飾るというご家庭もあります。それ以外には、学校生活の節目や七五三などの行事を節目と考えるご家庭もあります。
いつまでという決まりがないので「その人の成長お守り」と考え、成人した後や結婚してからも飾り続ける方も多くおられ、縁起物や季節のお飾りとしても飾っていただけます。